直近は、これまで以上に"長期視点"での組織運営が個人的テーマ。手始めとして、組織のスケーリングに関する本を読んでみている。
組織のスケーリングを考えるうえでは、スケーリングにおけるベストプラクティスを学ぶのと同じくらい、アンチパターン(スケーリングできていない状態 ≒ 人が増えても生産性が上がらない状態 ≒ 組織が硬直化・衰退している状態)を知ることが大事だなと思った。
そう思うに至った理由は、何が正解かは誰にも分からないが、アンチパターンを知っていれば失敗する確率を下げることはできるから。
Scaling Teams やチームトポロジーなどは、ベストプラクティスの1つであり知っておく意味は大きい。しかし実際は、本の中で紹介されているようなきれいな組織パターンを作れることは稀であり(複数の完全なチームを作るほど人がいない、等の理由)、2つ・3つの形態のハイブリッドになることがほとんどである。そうなると、結局は経営や事業、組織の状況に応じて自分たちの頭で考えて組織構造を作っていくしかない。
ここで、アンチパターンを知る意味が出てくる。
「組織設計におけるアンチパターンの1つは、すでに硬直化してしまった組織や、衰退のメカニズムから知れる」というようなことを、坂井風太さんがPIVOTの動画で言っていた。動画内で参考書籍として『組織の<重さ>』や『ビジョナリー・カンパニー 3』が紹介されていて、そこで本書を知った。
【Z世代育成・組織硬直化防止Q&A:坂井風太】ワンマン経営と組織効力感/権限委譲のコツ/マネージャーは自分のコピーを作るな/人材育成は古典をあたれ/人材育成プログラムの作り方/プログラム導入の説得方法
組織の重みとは何なのか?について、知識整理のために記事の最後にまとめておく。
では、何が組織の重みにつながっているのか?重くなった組織が変わるにはどうすればいいのか?については、各要素が複雑に絡まっており単純ではないゆえ、サクっと言語することはできなかった(言語化しようと思ったら、それこそ本一冊分のボリュームが必要になる)。自分の経験知として言語化できた際に、改めてアウトプットしようと思う。
1つ印象的だった内容がある。「重くなった(日本企業の)組織に必要なのは、有機的なアプローチ(ボトムアップ、下層の権限強化、階層少ない、...)よりも機械的なアプローチ(ルール/規則、トップダウン、階層多い、...)である」という話。これは一般的には直感に反する結果。日本の大企業が重くなっているのは、計画・ルール・ヒエラルキーによる支配によってもたらされているのではなく,内向きになった弛んだ共同体によって引き起こされているのだと思われるのがその理由。
「普通に考えると直感に反するセオリー」は、なかなか経験学習で身に着けるのは難しいと思っているので、こういう学びがあると読後満足感はかなり高い。
全体的に、最初から最後まで余すことなく実務で使える実践的な内容だった。
組織の重さとは
組織の重さを、以下の4つの概念で説明している
- 過剰な「和」志向
- 経済合理性から離れた内向きの合意形成
- フリーライダー問題
- 経営リテラシー不足
そしてさらに、1.と2.は「内向き調整志向」、3.と4. は「組織弛緩性」としてまとめることができる
1. 過剰な「和」志向
- 戦略が明確な時代は、和を重んじることで戦略実行能力を高めることにメリットがあった。
- が、むしろ事業の組み替えなどにスピードを要求されるような場合には,経営戦略こそがカギであり,経営戦略なき「和」の重視は「戦略不全」をもたらす可能性もある。
- 手段の目的化?
- 過剰な水準に高められた可能性
- 戦略実行能力を高めるための「和」が、いつしか和を重んじることそれ自体が目的と化してしまった
- この過剰な「和」の重視は,必要な戦略実行力を得るために支払う努力以上の調整努力をミドルに強いることになり,彼らに〈重さ〉として経験されるであろう.
- 質問
- 1人でもゴネると大変:「誰か1人でも反対する人がいると,意思決定にかかる時間が異常に増える」
- 激しい議論は子供だと思われる:「激しい議論は『大人げない』と思われている」
- 対立回避するヤツが出世する:「正当な意見を忌憚なく言う人よりも,対立回避のための気配りをする人の方が出世する」
- 質問
- 和が不要と言っているわけではない。組織である以上調和は必ずいる。「過剰な」和がよくない、という話。
2. 経済合理性から離れた内向きの合意形成
- 組織は分業をしているが、顧客や競争ではなく、機能組織間での対立に多くのコストを割いている状態
- 「組織が異なる視点で目的に対して意見を言う」ことには意味があるが、それぞれが必要以上に自ユニットの利害を主張すれば、組織全体にとってのマイナス影響は大きくなる
- 質問
- 機能別の利害に固執:「R&Dや生産,販売などの機能部門の利害に固執しているミドルが多い」
- 内向きの合意形成:「顧客や競争の問題よりも,BU内の人々の合意を取り付けることに真剣な配慮をしている局面にしばしば直面する」
- メンツを重視しているだけ:「ミドルがBU内の調整を行う際に,利害対立の問題よりも,単にメンツだけの問題を解決しているような気持ちになることがある」
- わが社のトップ層は政治的:「わが社のトップ周辺には奇妙な政治力学が働いている」
3. フリーライダー問題
- メンツや自ユニットの利害に固執した内向きな議論ができるのは、それだけ会社にゆとりがあるから
- ゆとりがなくなるまでは、会社は倒産しない
- そこに、フリーライダーが生まれる余地がある
- いわゆる社内評論家
- フリーライダーが多い組織では、社内調整を行う際にミドルが経験する組織の重さは著しく大きくなる
- 質問
- 口は出すが責任はとらない:「口は出すが,責任はとらない,という上司が多い」
- 自分の痛みと感じない人が多い:「BUが利益を上げていないことを自分の痛みとして感じられないミドルが多い」
- 決断が不足している:「決めるべき人が決めてくれない」
4. 経営リテラシー不足
- 経営リテラシーがあれば、前述の3つの問題も解決できるかもしれない
- 近年は、経営リテラシーの不足した経営者が多い
- ミドルも経営リテラシー必要
- 質問
- 戦略審美眼に優れたミドルが多い:「うちのBUには戦略の評価眼が優れたミドルが多い」
- わが社のトップは優秀:「わが社のトップ・マネジメントは優れた意思決定を行う能力が高い」